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札幌地方裁判所 昭和50年(行ウ)7号 判決 1978年7月18日

原告 渡邊一夫

被告 札幌国税局長 ほか一名

訴訟代理人 本間敏明 ほか四名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告札幌国税局長が原告に対し昭和四八年二月一四日付納付通知書をもつてなした、訴外エルム自動車工業株式会社に対する昭和四四年度分滞納国税金三三六万八八九〇円の第二次納税義務を課す旨の告知処分を取消す。

二  被告国税不服審判所長が原告に対し昭和五〇年四月一六日付でした札裁(諸)五〇第一号裁決を取消す。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

(被告ら)

主文同旨。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  本件処分の概要

1 原告は訴外エルム自動車工業株式会社(以下滞納会社という)より、昭和四三年二月一〇日別紙目録(一)記載の各物件を代金五五〇万円で買受けた(以下本件売買という)。

2 滞納会社は昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度法人税につき欠損(金四六二六万二七〇円)を内容とする青色確定申告をしたところ、税務署長は本件売買にかかる不動産の時価を別紙目録(二)記載のとおり金一一〇七万五一五七円と評価して右売買代金額との差額金五五七万五一五七円の所得を認定し、同四四年一二月二二日付で本税金二〇万六六〇〇円、過少申告加算税金一万〇三〇〇円とする更正処分をした(滞納会社は同処分について審査請求を行なつたが棄却され、同処分は確定した。)。そして同署長は右所得が原告に対する役員賞与として支払われたと認め同四四年一二月二三日付で本税金二九七万三〇八四円、不納付加算税金二九万七三〇〇円の源泉所得税の納付通知処分をした。

3 被告札幌国税局長は原告に対し、同四八年二月一四日付で滞納会社の滞納国税を徴収するため本件売買にかかる目的物の時価を右税務署長と同様に別紙口のとおり認めたうえ、本件売買は国税徴収法第三九条の著しい低額の譲渡であるとして納付通知処分(以下本件納付通知という)をした。

4 そこで原告は同年三月一四日被告国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、被告国税局長は本件売買にかかる目的物の時価を別紙(三)のとおり認定したと主張し、被告国税不服審判所長は同時価を別紙(四)のとおり認めて同五〇年四月一六日札裁(諸)第一号裁決により右審査請求を棄却した(以下本件裁決ともいう)。

二  本件納付通知の違法

1 手続上の違法

(一) 本件納付通知書には滞納国税等として

年度税目納期限本税過少申告加算税不納付加算税

四四法人税四五・一・二二八八、二〇六円一〇、三〇〇円

四四源泉所得税四五・一・二三二、九七三、〇八四円 二九七、三〇〇円

と記載されているが、かかる記載が昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度にかかる滞納国税を表示していると言うことは出来ないし、仮に表示しているとするならばその記載は不適法であつて無効である。

(1) 即ち、法が納付通知書の記載事項を法定しているのは納税義務者をして課税要件の有無の確認を可能とすることがその目的の一である。かかる目的からすれば国税徴収法第三九条の納税義務は、滞納国税と譲渡等の行為とが法定納期限を基準として一定の時間的関係にあることをその実質的課税要件としているから、納付通知書にも滞納国税の法定納期限を判断し得るだけの事項が記載されなければならない。同法施行令第一一条第一項はこれを明らかにすべく納期限及び年度について記載を要求しており、その趣旨は滞納国税の法定納期限及び同国税にかかる事業年度の記載を要求するものである。

(2) しかし、本件納付通知の右記載から滞納国税の法定納期限を判断することは困難である。少なくとも、その滞納国税が昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度に関するものとは解し得ないし、仮に昭和四四年度分と解しうるとしてもその場合には滞納会社に確認を求めてもその存在を否認されるだけである。

(3) さすれば本件納付通知書の記載は国税徴収法第三二条一項、同法施行令第一一条一項に違反した違法がある。

(二) 本件納付通知書の理由付記は次のとおり不備があり、違法である。

(1) 本件納付通知書の摘要欄には

『第二次納税義務の内容

一  滞納者エルム自動車工業株式会社は下記の資産を渡辺一夫に五五〇万円で譲渡しました。なお(1)の不動産については札幌法務局四三年三月一日受付第一二八二四号所有権移転登記、(2)の動産については中村義正公証人役場第八八四九号四三年四月二日作成の売渡証明書があります。

(1) 不動産

<1> 札幌市北区北一三条西四丁目六の一

家屋番号 四九

二階建工場兼事務所

一階 二六七平方メートル七六

二階 三九平方メートル六六

<2> 札幌市北区北一二条西四丁目二〇の二

家屋番号 二〇の二

平家建自動車検査所 六六平方メートル一一

<3> 同上住所一九の一

宅地 二三一平方メートル三七

<4> 同上住所二〇の二

宅地 九八平方メートル一八

(2) 動産

機械二六点(内訳別紙2のとおり)

二  この譲渡は、当該物件の当時の時価からみて国税徴収法第三九条にさだめる著しい低額の譲渡に該当するものです。したがつてこの資産の譲受入である渡辺一夫は、当時の時価と譲渡価格の差額から遣産取得のための直接費用を控除した五二一万四八〇七円を限度として滞納者の国税につき第二次納税義務を負うことになります。』

との記載があるが、同記載内容では憲法第三〇条、国税徴収法三二条の必要とする事項は充たされておらず違法であつて取消を免れない。

(2) 即ち、右記載のうち譲受財産の「当時の時価」を個別財産ごとにいくらと評価認定したのか、また「資産取得のための直接費用」とはいかなる費目についていくら認めているかについて、具体的記載を欠き、内容が不特定であつて、記載全体として不備がある。

3 実体法上の違法

(一) 本件滞納国税は滞納会社が本件売買をしたことにより発生したものであつて、本件売買がなければ発生しなかつたものである。従つて、その徴収不足は本件売買が原因となつたものでないから国税徴収法第三九条の要件を欠くものである。

(1) 国税徴収法第三九条の趣旨は租税回避行為の防止にあり、民法の定める詐害行為取消権とその基本理論を同じくするものである。

しかして詐害行為取消権において取消債権者の債権は、詐害行為の以前に発生したものであることが必要であることからして、第二次納税義務についても同様に考えられる。

(2) また、仮に本件売買を取消して不動産等の現物を滞納会社に取戻したとしても、その結果は滞納国税の発生がないことになるのであつて、その結果は無意味、不当な干渉となるだけである。

(二) 本件納付通知には国税徴収法第三九条の一利益が現に存する限度」の算定につき、違法がある。

即ち、原告の受けた利益を算出するについて、仮に被告らの評価額を前提とするにしても、滞納源泉所得税二九七万三〇八四円は原告の負担すべきものである以上これを控除すべきであるが、本件納付通知では右控除をしていない。

三  本件裁決の違法

1 事実誤認

被告札幌国税局長は本件通知処分をするについて本件売買の目的物の時価を別紙(二)記載のとおり評価したが、審査請求の手続においては別紙(三)記載のとおりと主張して評価を変更し、被告国税不服審判所長は本件通知処分とは何ら関係のない原処分庁の主張する評価額を前提に本件裁決を行なつた。

しかも右評価は事実を誤認している。本件売買は概ね適正時価で行なわれたものであり、その個別的評価は以下の数値が妥当と思われる。

(一) AB宅地 一三〇万九五六七円

固定資産評価額×相続税倍数×貸付底地割合

1,940,100×1.5×0.45 = 1,309,567

AB両宅地は、その全部が訴外えびす屋旅館の別館の敷地として利用されており、貸付地として評価すべきである。

(二) 借地権 一一二万四五八五円

固定資産評価額×相続税倍数×(自用貸付地割合-貸家建付地割合)

4,544,000×1.5×(0.55-0.385)= 1,124,585

(三)右以外の財産について特に意見はない。

2 本件裁決は国税通則法第一〇一条、第八四条五項に違反する。

審査請求を棄却する場合、裁決書にはその維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならないのであるが、本件裁決は本件売買の目的物価額を金一二八〇万二五七二円と認定したにとどまり、限度額金五二一万四八〇七円が何故に維持されるかの理由を付してないのである。

3 本件裁決には附記理由不備の違法がある。

(一) 本件裁決は本件売買目的物の時価を別紙(四)のとおり認め、結局原告の評価に誤まりがあるとした主張を金三〇九万六〇一五円の限度で認めている。

(二) ところで、原告の主張を著しい低額譲渡ではない、との形で理解するときは原告の主張が右範囲で理由があつたにせよ結論に影響しないものといえ、矛盾はない。

(三)しかし原告主張の真意は、予備的に限度額の変更をも求めていたと解されるのであつて、明確な申立がなされてない場合でもかかる申立あるものとして審査するのが当然である。

(四) さすれば限度額は金五二一万四八〇七円から前記差額金三〇九万六〇一五円を引いた金二一一万八七九二円に変更するのが当然の審査の結果であるのに審査請求を棄却したのは、理由との間に齟齬を生じているものというべきである。

4 本件裁決は、国税通則法第九八条二項但書に違反する。

(一) 処分の取消、変更は審査請求が理由あるときに限つて為されるものであるから、同項但書の存在をまつまでもなく右変更は常に審査請求人の利益となるものである。とすれば右但書が意味を持つのは結局処分の原因ないし要素についても不利益を変更をしてはならないとの点にあるものと解すべきである。

(二) しかるに被告国税不服審判所長は、原処分における本件売買の目的物評価額(別紙目録(二)記載のとおり)を変更して同目録(四)のとおりとし(それは面積の拡大と単価の引上げに起因する)、AB宅地、C宅地及び借地権について右主張の意味における不利益変更を行なつた。

(三) よつて本件裁決には同項但書に反した違法がある。

四  以上によれば、本件納付通知及び本件裁決にはいずれも右記の各違法があるから、その各取消を求める。

(被告らの認否と主張)

一  請求原因第一項の各事実はすべて認める。

ただし、被告札幌国税局長は本件売買にかかる目的物を税務署長と同じく評価したのではなく、合計で金一五八九万八五八七円と評価したが第二次納税義務を課すにあたつてより低額な右税務署長の評価額を採用したにすぎないのであつて従来からその旨の主張を行なつてきたものである。

二1  請求原因第二項1(一)(二)のうち、原告主張どおりの記載あることは認めるがその主張については争う。

(一) 本件納付通知は講学上「納税の告知」と呼ばれるものであつて、確定した租税債権についてその履行を請求する行為である。従つて納付通知書の記載もその趣旨が明らかにされれば足りるのである。本件納付通知書もまた国税徴収法第三二条一項、同法施行令第一一条一項各号の要件を記載しており右の趣旨は明らかとなつている(なお憲法第三〇条は租税法律主義を定めたもので、右の記載について規定するものではない)。たしかに原告主張のとおり、納付通知書の記載から第二次納税義務の具体的要件が明確になることは望ましいと言えるけれども、だからといつてそうでないものがすべて国税徴収法第三二条一項に違反するものとは言えない。

(二) また原告は納付通知書に記載されるべき納期限及び年度の意義について主張する。しかして本件納付通知にかかる法人税についてみるに、滞納会社の法人税の法定納期限は昭和四三年五月三一日であつたけれども同会社は過少申告をしたために税務署長が同四四年一二月二二日更正処分ならびに過少申告加算税賦課決定をして通知書を発したから、その納期限はその翌日から起算した一ヶ月を経過する同四五年一月二二日になつたのである(国税通則法第三五条二項二号、三項)。また源泉所得税についてみるにその法定納期限は同四三年三月一一日であつたが、同日までにその納付がなかつたため税務署長は同四四年一二月二三日滞納会社に対し不納付加算税を賦課するとともに源泉所得税の納税告知をしたから、その現実の納期限は当該告知書を発した日の翌日から一ヶ月を経過した同四五年一月二三日となつた(同法第三六条一項二号、同法施行令第八条一項)。そして、国税債権がどの会計年度に所属することになるかは国税収納金整理資金に関する法律によつて定められており、本件納付通知にかかる法人税については更正通知書を発送した昭和四四年一二月二二日が、また同通知にかかる源泉所得税については納税告知書を発送した同月二三日が属する昭和四四年度がそれぞれ所属する会計年度である(昭和四六年改正前同法第一四条二項、同法施行令第三条一項二号)。本件納付通知には右の趣旨における年度、納期限を記載したものであつて、何ら違法はない。

2(一)  請求原因第二項2(一)の主張は争う。

国税徴収法第三九条が詐害行為の取消に代えて簡易迅速に国税徴収の確保を図るものであることは否定できないが、だからといつてその要件を詐害行為取消権と同一に解さなければならない理由にはならない。あくまでも本件売買が本件滞納国税の法定納期限の一年前の日以後になされたものであれば足り、しかも本件売買以前に本件滞納国税が確定していることを要しないのである。

(二)  請求原因第二項2(二)の主張は争う。

国税徴収法第三九条にいう「受けた利益の限度」の額は、当該受益の時を基準として算定すべきものであるから、その算定上受益財産の価額から控除すべき出捐は、右受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解するのが相当である(最高裁昭和五一年一〇月八日)とされている。

ところで、給与又は賞与の取得により課される源泉所得税は、当該給与又は賞与の取得による所得だけではなく、その月中に取得した他の給与又は賞与との関連において課税標準及び税額が移動するものであつて、当該受益の時においては、その納税額を法律上客観的に確定することができないものであるから、たとえ本件賞与以外にその月中に取得した賞与はなく、したがつて、本件賞与のみによつてその月中の源泉所得税が確定したとしても、右税額は前記「受けた利益の限度」の額の算定にあたり、これを控除すべきものではないといわなければならない。まして、本件においては、滞納会社は原告から源泉徴収をしていないし、原告も未だ現実に本件源泉所得税を納付していないのであつて、原告はなんらの負担もしていないのであるから、右税額を前記「受けた利益の限度」の額の算定にあたりこれを控除すべきものではないことは当然である。

三1  請求原因第三項1の主張は争う。

原告は、国税不服審判所長が本件通知処分とは何ら関係のない原処分庁の主張する評価額をその主張事実と誤認して、これを前提に審理裁決したので違法であり取消されるべきであると主張するが、原告の審査請求の趣旨及び理由は「本件不動産等の譲渡が著しい低額の譲渡に該当するとは思われないので納付通知書の取消しを求める。」というものであつたところから、国税不服審判所長は原処分庁が原告に対して行つた五二一万四八〇七円を限度とする第二次納税義務の告知処分の適否について審理したものである。

すなわち、国税不服審判所長は原処分庁から任意提出された納付通知決議書及び附属書類を調査したところ、原処分庁においては当該不動産等の評価額は一五八九万八五八七円であるとしながらも、実際の第二次納税義務の告知処分に当たつては、税務部門における評価の統一を図り、かつ、確実な「徴収をしようとする金額」を算定するため、右評価額より低い価額である札幌北税務署長が滞納会社の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度分法人税について更正処分をした際における価額一一〇七万五一五七円を徴収しようとする金額の算定基礎として採用し、この金額から譲受価額五五〇万円及び資産取得のための直接費用(登録免許税等)三六万〇三五〇円を控除した五二一万四八〇七円を第二次納税義務者から徴収しようとする金額として告知したものであつた。

そこで、国税不服審判所長は、原告の財産の譲受けが国税徴収法三九条に規定する「著しく低い額の対価による譲渡」(以下「低額譲渡」という。)に該当するか否かについて審理するため独自に譲受財産の評価をしたところ、一二八〇万二五七二円となり低額譲渡であると認められたので、当該評価額は原処分庁の評価額一五八九万八五八七円を下回るが、原処分が第二次納税義務者から徴収しようとする金額の計算基礎とした一一〇七万五一五七円を上回るから、当該一二八〇万二五七二円の範囲内の価額を基礎として受けた利益の限度を計算してなした原処分は相当であるとしたもので、審理の前提となる事実についての誤認はなかつたものであり、原告の主張は失当である。

2  請求原因第三項2の主張は争う。

原告は、国税不服審判所長の裁決は国税通則法一〇一条、八四条五項に違反し違法であると主張するが、原処分庁が第二次納税義務の告知処分によつて第二次納税義務者から徴収しようとする金額の計算基礎として採用した譲受財産の評価額は、前述のとおり一一〇七万五一五七円であるので、裁決の理由において本件譲受財産の評価額を一二八〇万二五七二円であることを判示することにより、譲受価額は五五〇万円であるから本件財産の譲受けは国税徴収法三九条に規定する低額譲渡に当たることはもちろん、原処分により第二次納税義務を負う「受けた利益の限度額」として納付すべき税額とされた五二一万四八〇七円も、当該一二八〇万二五七二円から譲受価額及び双方に争いのない直接費用三六万〇三五〇円を控除した金額六九四万二二二二円を下回ることは自ら明らかである。

従つて、原処分を正当とする理由は明らかであり、原告の主張は失当である。

ところで、国税不服審判所長の審査請求の審理の範囲を本件に即していえば、原告の財産の譲受けが<1>低額譲渡に該当するかどうか、<2>同条に規定する低額譲渡によりいくらの利益を受けたかどうかであり、また、審理の対象は原処分が原告の財産譲受けにより受けた利益の範囲内で第二次納税義務を課しているかどうかであるので、受けた利益がいくらであるかを審理することは、原処分の違法性の判断の決め手となるとしても、受けた利益の限度はいくらかを確定するものではないのである。

そこで、国税不服審判所長は、原告の財産の譲受けが低額譲渡であることを審理するとともに直接費用についても審理したうえで原告が財産の譲受けにより受けた利益の限度が原処分庁の認定した額を上回る額であることを認定し、原処分の納付すべき金額が当該認定額を下回るから原処分に違法が存しないものであると判断したものであり、原告から本件裁決が国税通則法一〇一条、八四条五項の規定に違反すると非難されるいわれはないのである。

3  請求原因第三項3、4の主張は争う。

原告は本件裁決に理由不備があるとする。しかし原処分庁の評価額金一五八九万八五八七円は本件売買が低額譲渡に該当するか否かを判断するためのものであつて、原処分庁が原処分の徴収しようとする金額の算定基礎とした価額ではない。原処分庁が原処分の徴収しようとする金額の算定基礎とした価額が国税不服審判所長の評価額より低いからといつて、それ故に第二次納税義務者から徴収しようとする金額を変更しなければならないというものではない。

また被告国税不服審判所長が第二次納税義務者である原告から徴収しようとする金額を増額変更していないことは原告も認めているところであり、原告に何らの不利益をもたらすものではない。

四  請求原因第四項は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件納付通知処分が違法である旨を主張しているので以下に検討する。

1  手続上の違法に関する主張について

本件納付通知書には、滞納国税等として請求原因第二項1(一)記載のとおり「滞納に係る国税の年度、税目、納期限及び金額」が記載されている(この事実は当事者間に争いがない)。かかる記載は国税徴収法施行令第一一条第一項二号の要求するところであるが、その趣旨とするところは滞納に係る国税を特定し、これを第二次納税義務者に告知するところにあると解される。しかしてその特定方法としては、原告主張のとおり滞納国税に関する事業年度、法定納期限等を記載することもその一方法であるが、被告ら主張の記載内容によることもその一方法であつて、右条項の解釈としてはその文言解釈からみて被告ら主張の特定方式を規定していると解するのが相当である。よつてこの点に関する原告主張は理由がない。

もつともかく解する結果、納付通知書には滞納国税の法定納期限が記載されないこととなりその範囲で右納付通知を受けた者がする不服申立について便宜供与を欠くことになるが、そのことが納付通知処分を違法とするものではない。第二次納税義務の告知において如何なる程度で理由を付記すべきかは、右告知を受ける者の利益保護の必要性や税務行政の円滑性等を総合調和して決定すべきところ、その調和点として同施行令第一一条第一項四号の規定があるからである(より詳しい理由付記を行なうことは望ましいといえるが、同施行令が要求しているところではない)。しかも本件納付通知の摘要欄には請求原因第二項1(二)(1)記載の事実が書かれており(この事実は当事者間に争いがない)かかる記載からすれば滞納国税の法定納期限についても充分推測が可能であつたと認められる。従つて、本件納付通知には右便宜供与に欠けるところもなかつたといわねばならない。

なお原告は請求原因第二項1(二)(2)記載のとおり主張しているが、以上述べたところからして納付通知処分を違法とするものではないのであり、また他に原告主張を裏付ける根拠もないからその主張は採ることができない。

2  実体法上の違法に関する主張について

(一)  原告の請求原因第二項2(一)(1)の主張は国税徴収法第三九条と民法第四二四条とが同一の基盤をもつものと考え、その要件も同じく解すべきであるというものである。しかし、国税徴収法第三九条が詐害行為取消と同一の基盤を持つ側面は否定しえないものの他方その要件は納税者の悪意を要求せず、また第三者は現存利益の限度において第二次納税義務を負うなど詐害行為とは異なることを考えると、その制度目的はより広く財貨移転の不平等、不均衝を調整する側面を有すると言うべきであつて、その要件を同じくしなければならない理由はない。そして同法第三九条は原告の右主張のごとき限定を要件としていないし、また限定する根拠もないのであつて、その主張は採ることができない。

また同項2(一)(2)の主張についてみるに、同法第三九条は現物を滞納会社に取戻すことを目的としていないことは明白であり、主張自体失当である。

(二)  次に同項2(二)の主張についてみるに、所得税のうち源泉徴収制度が採られている部分については国と個々の所得者の間で租税を納付徴収したりする関係は生じないから、源泉所得税を原告が負担することを前提とする右主張は理由がない。

3  結論

以上、本件納付通知処分には原告主張にかかる違法はなく、また他に何らの違法を認めることができない。

三  次に原告は、本件裁決に違法がある旨主張するので、以下に検討する。

1  事実誤認の主張について

(一)  <証拠省略>を総合すると、原告の被告国税不服審判所長に対してした審査請求の趣旨、主張は「本件売買は適正価額によつたもので著しく低額な譲渡ではないから本件納付通知処分の取消を求める」というのであり、被告国税不服審判所長がした本件裁決も右の争点に対し判断を示していることが認められる(他に反する証拠はない)。従つて本件裁決には何ら判断対象を誤つた違法はない。

(二)  次に原告は本件売買の目的物の評価に誤りがある旨主張する。そこで<証拠省略>によると、滞納会社は不動産鑑定士小川潤二郎に対し昭和四三年一月当時における右目的物価格について鑑定評価を依頼指示しその結果総額で金一四九五万八八九四円となる旨の鑑定結果を得たことが認められ、<証拠省略>弁論の全趣旨によると、右の鑑定結果は十分に信用できるというべく、これと<証拠省略(裁決書)>、の価格評価に対する判断理由とを対比検討するとき、その目的物評価に誤りはなかつたと認められる。よつて、この点に関する事実誤認の主張も理由がない。

2  国税通則法第一〇一条、第八四条五項違反の主張について

前顕<証拠省略>によると、本件裁決書には本件売買の目的物の時価を別紙(四)のとおりと認定した理由及び本件売買代金が金五五〇万円で当事者間に争いのないことが記載されているが、右買受のための直接費用については何ら触れるところがなかつたことが認められる(他に反する証拠はない)。

しかし<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すると、被告札幌国税局長は本件納付通知において原告から徴収する限度額を金五二一万四八〇七円としたこと、右金額は本件売買目的物の時価を別紙(二)のとおり総計金一一〇七万五一五七円と認めこれから本件売買代金五五〇万円とその取得費用金三六万〇三五〇円とを控除して得られたものであること、原告は滞納会社の常務取締役であつたから、容易に直接費用の額についても知り得たと認められること、原告は被告国税不服審判所長に対する審査請求において右売買代金が五五〇万円であることは認め取得費用については争わなかつたこと、従つて右審査における争点は本件売買目的物の時価がいかほどでありそれが著しい低額の譲渡と認められるか否かの一点にしぼられていたこと、被告札幌国税局長は右審査の段階でその時価を別紙(三)のとおり主張したが被告国税不服審判所長は審査の結果別紙(四)のとおりと認めたことが認められ(他に反する証拠はない)、かかる経緯にてらすと、争いとなつた本件売買目的物の時価を示すことにより著しい低額の譲渡であることが自ら明らかとなる状況であつたといえるから本件裁決が前記直接費用につき触れるところがなかつたとの一事をもつて、原処分が維持された判断根拠が不明であるとすることはできず、原告の右主張も採ることができない。

3  附記理由不備の主張について

原告は、本件裁決において原告主張が金三〇九万六〇一五円の範囲で認められたとする。しかし、本件通知処分において処分の前提とされた時価は別紙(二)のとおりであり、他方本件裁決では時価を別紙(四)のとおりと認めていること前述したとおりであつて、さすれば本件裁決において原告主張の一部が認められたとすることは理由がないこと明らかである(原告は別紙(三)との比較で主張するようであるが、同金額は何ら処分の前提となつておらない)。よつて附記理由が不備だとする主張にも理由がない。

4  国税通則法第九八条二項但書違反の主張について

同条項で制限されているところは処分の不利益変更であつて処分の前提とされた原因事実や要素とされた事実についての変更が制限されているわけではない(処分の取消変更は審査請求が理由あるときに限つてなされるものではあるが、それ故に変更がすべてにわたつて審査請求人の利益となるものではない)。原告の右主張は失当である。

四  以上によれば原告の主張は理由がなく、また他に本件納付通知及び本件裁決の各処分に違法はないから原告の各請求を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 丹宗朝子 前川豪志 原裕之)

別紙目録(一)ないし(四)<省略>

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